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2025年1月31日

植込型左室補助人工心臓患者に対する看護師による終末期ケアのプロセス

高橋 翔平(東京大学医学部附属病院)


近年、植込型左室補助人工心臓(LVAD)患者数も増加し、今後DestinationTherapy(DT)の増加が予測されるため、終末期を見据えた支援がより一層重要になります。本研究はLVAD患者の終末期ケアに関する質的研究で、看護師が精神的負担を抱えつつ、最善のケアを模索する姿を示しました。 


 この度、第21回日本循環器看護学会学術集会にて、最優秀演題を受賞させて頂きました。栄えある賞に選考して頂き、誠にありがとうございます。職場の方々をはじめ、研究協力者の皆様、ご指導頂いた先生方のご尽力の賜物です。この場をお借りして心より御礼を申し上げます。

 植込型左室補助人工心臓(以下LVAD)は重症心不全患者に対する心臓移植への橋渡しの治療方法の一つです。近年、心臓移植を希望する患者の増加とLVADの治療成績の向上によりLVAD患者数も増加しています。一方で、心臓移植待機期間に年間約40名が心臓移植に辿り着けず亡くなっています。また、本邦でも心臓移植を目的としないDestinationTherapy(以下DT)が開始され、LVADを装着したまま亡くなる方は今後増加すると予測されています。臨床でもLVADを装着したまま亡くなる患者さんと家族が身体的・精神的に苦しむ姿を目の当たりにしました。一方で、我が国でのLVAD患者の終末期に関する研究は十分に行われていません。重症心不全患者さんの治療選択において、医師や移植コーディネーターを中心に丁寧な意思決定支援が行われていますが、患者さんや家族と関わる中で、どのような最期が起こり得るのかも十分に考慮した上でLVADの装着を決めているのかという疑問が生じました。LVADによるメリットだけでなく、終末期の様相も知った上で治療を選択することで、より良い意思決定支援につながると考えたことが、本研究のきっかけでした。

 研究テーマを焦点化していく上で、LVAD患者の終末期はどのような様相を示していて、それに関わる看護師はどのような思いや感情を抱きながら終末期ケアを提供しているのかを把握する必要があると思いました。具体的には、修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて、成人LVAD患者に対する看護師の終末期ケアにおける動的な相互作用を分析しました。その結果、成人LVAD患者の終末期に関わる看護師は多くの精神的負担を抱きながら、患者さんと家族にとって最適な最期を迎えることができるように多くのコミュニケーションを図り、最善を尽くす姿が示されました。
 研究を進めていく上では、質的データに対して解釈する作業には多くの時間を費やしました。抽象的になりすぎず、量的データでは得られない解釈の深さを追求することは、常に悩み続ける作業でしたが、沢山のご指導や意見交換の中で、洗練されたと思います。

 今後はDT目的のLVAD患者が増加することで、患者さんや家族が望む生活を実現するためには、医療者が適切にLVAD管理と意思決定支援を行える体制の構築が求められます。私自身もLVAD管理の実践能力向上に向けて研鑽に励みつつ、患者さんや家族が納得できる治療選択の意思決定支援に寄与できればと考えています。この度の受賞は成果ではなく、今後の研究や実践に向けた使命として捉え、今後も循環器看護の発展に貢献していきたいと思います。

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